誠実にじっくりと書きました。
風薫る緑の季節のごあいさつとしてちっともふさわしくないのですが、ここんところ、みしみしとお寒うございますね。
雨粒がとつとつぴたん、と窓に貼りつき、灰色の雲がぼったりと重く家々の屋根と黒い電線の隙間を塗りつぶしています。
そんなちょっぴり残念なお天気の週末を少なからず有意義に過ごすため、本日はどなたにもお勧め出来るとても上質な一冊をご紹介。
03年川端賞受賞作の「スタンス・ドット」を収録し、連作短編集として04年に谷崎賞を受賞した「雪沼とその周辺」(堀江敏幸:新潮文庫)です。
抑制の効いた端正な日本語で丁寧に綴られたこの短編集は、まるで熟練した職人が丹精込めて作った寄木細工のよう。
細工に適した反りや歪みの少ない木材をじっくり吟味し、物語に似合う色合いを緻密に配置しながら慎重に紡ぐことで生まれる、ひっそりとしたたたずまいの美しい小箱。
「雪沼とその周辺」に収録された7編の物語には、そのいずれにも「雪沼」という侘しい山間の町が登場します。
そこに関係を持ち、暮らす人々の上に降り積もる様々な「時」。
彼らに降り積もる「時」は決して彼らの悲しみや喜びを無闇に、声高に主張することをしません。
それぞれの人生模様を描く登場人物達と読み手との間には、どこか心地のよい距離が存在します。
読み手は「雪沼」という(私の想像では長野県の上の方にある)架空の町をおでこの上あたりにぼんやりと描きながら、「雪沼」を中心に袖刷りあうほどの縁で結ばれている、それぞれの作品の主人公たちの人生を、不可視のささやかなものとなって鳥瞰できるのです。かすかだけれど確かな息遣いをそこに感じながら。
この短編集に登場する主人公たちは、誰もがどこか懐かしさの漂う品々と、愚直なまで誠実に関わり合っています。
それはストライクを打つとすばらしい和音を奏でる時代遅れのボウリングセットであったり、不恰好だけれどもそれ自身が一番動きやすいように作られた古い機械であったり、古いレコード屋に置かれた、あたたかでまろやかな音を紡ぐ年代物の家具調ステレオであったり、決して灯されることのないたくさんのランプであったり・・・。
それらは誠実に扱われ続けて来た幸運な品々の、ほんの一部です。
他の品々は、どうぞ貴方が「雪沼」の入った小箱を開くその時、その手で触れて、その質感を、音を、そして匂いを、しっかりと確かめてみてください。
(いつものような、意味不明のあほあほ推薦文も読みたい方は、続きをどうぞ。)




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